コツコツと なるウッド製のデッキで歩く乗客は おおい。
音はいいが 意外と足触りは柔らかい。
方向は 一応前から後ろだが 決まったことではないので 逆から来る人も
また回らず片側往復の人もいるし様々である。
ふたりは 一応前から始まって 後ろからむかい、 くるりと船を一回りし、何周はするのだ。
”いやいや、覚悟はしていたつもりだが 、もうすでに寒いなー カリブが懐かしいよ。
細身で 脂肪の少ない分 寒さがしみるらしい鷹也はぼやいた。
“カリブはねー 暑いくらいだからね。私は暑いカリブもいいけれど この寒いキーンとしたかんじもすきだなー 空気がきれいな感じがするじゃない。
それにしても・・・と那美の中にカリブの思い出が するすると でてくる。
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”スイートってこのあたりかしらね、なんだか、入り口豪華なキャビンが並んでいるよ。
プールのあるリドデッキにほど近いフロアーは suiteと きいている。
プーるサイドのお喋りで 親しくなったアメリカ人のリタイアカップルに部屋に食前の一杯をやりに来ないかと誘われたのだ。
”えーと、たしかケンメリ―ならぬ、ジムメリーだったよね。
この名前がそうかな?
目の前の部屋の入口にjamesとmaryの 名前が ならんでいる。名字は アトキンソンとなっているが 名前しか聞いていないので 多分あっているというところ。
キャビンスチュワードと思しき、インドネシア人のスタッフが出てきたので
”こちらは Mr,jamesとmisMaryのお部屋かしらときいてみた。
わたしたち、ご招待を受けているものなのだけど。
彼は那美を上から下まで じっくり品定めをしてゆっくり、
”いまお部屋にいらっしゃるから聞いてまいりますと
ふたりにまて!をさせて 部屋に戻りすぐに ニコニコとジムが あらわれた。
”Nami, Takaya!good evening ,welcome welcome
ささ 入って入って、と長い腕をふりまわして 二人を招き入れる。
ホテルのスイートと変わらない感じだが バルコニーの向こうに 輝くカリブがあるのが さすがクルーズである。
マリーも ジムもハグハグと 親し気に 二人をバルコニーへとさそう。
ここで 何か飲もうか、今日はあまり風が強くないからね 、何がいい?
ふたりは 前後して 赤白のワインをお願いあい脇に控えたバトラーの青年に 注文をたのむ。
そう、バトラーだったのだ。
この船のスイートはバトラーがつく。あこがれのスイートライフである。
バルコニーには 濡れての良いタイプの2脚並んでいるので 向かい合わせにカップル同士で すわって、 おしゃべり開始。
鷹也は仕事でも使うので 特に話には困らないが那美はときとして 聞き返したりして 話題を続けていく。
海軍退官して アメリカのニュージャージーに住んでいるというジムは 感じのいい アメリカのおじさんである。
プールで泳いでいて 知り合った、マリーと那美が 上がってからお互いの伴侶を引き合わせ、なんだか意気投合してしまい、お招きを受けた。
カリブ海のバルコニーは さすがに シーブリーズも気持ちよく 夕焼けが 遠くに始まりかけて 海が夜への衣裳替えの真っ最中である。
”いいですねーバルコニーに来たのは初めてなんです
那美が喜ぶとマリーが
”ここはいいわよね、でもアラスカとかは バルコニーから隙間風が入って寒いのよー場所によるわよ。暖房があっても海って寒いんだから。
うんうんとジムも賛同する。
でもカリブ海は バルコニーがあってもよかったなと那美はちょっと残念感がある。
飛行機もとらねばならないので、リーズナブルな クルーズでも合わせれば結構な
出費になるので、数をこなしたい那美は ええいとばかりにインサイドにしたのだ。(いつかリベンジね)と 頭の中のメモに書き込んでおく。
飲み物と エビのカナッペがとどいて メンズは ジムのもっているワイナリーの話に盛り上がりつつある。
ワインも飲み口のよいなめらかなものがとどいた。
カリブ海の蛍光を帯びたような 海も 夕闇の中にとけると 暗い艶のある波になっていく。
バルコニーで 一杯やるとかって なんだか クルーズ本懐よねと 那美は
沈む夕日を目で追った。
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”あの カリブのバルコニーは 良かったよなー 程よいあったかさでさ、
でも昼はいただけないかもしれないね、暑すぎるかな、ここで思い出すと
どう、すこしあったまる?
”ほんとほんと、でも やっぱりここは寒い、クルーズ選びはいろいろな面で お考えいただくのが よろしいですよ、お客様?
”うーん、良く、気をつけるよ。
と デッキで 大きなデジカメを 掲げた ニールが 手をふっている。
”あそこのブイにアザラシが乗ってるよ”
言われた方を眺めるとドラム缶の上に灯台がのっかったような感じのブイの根元に
アザラシが 2匹昼寝をしている。
しきりにシャッターを切るニール。
後で トリビアの時に タブレットで 見せてくれるといって そのまままた二人は通過して歩き続ける。
”何周め?
”まだ 3周かな、
”10周はしなきゃ、 那美は ニット帽を 目深におろす。
風が冷たくデッキを吹き通っていく。
途中で みえる、レストランでは デイナーの支度が 忙しく行われている。