”何でもおいしそうで なかなか、きめるのが大変ですよね”
”そうですよねーじっくり メニューと相談してるんです”
と かえしながら、オーダーをしている那美の向こうでは”日本酒はあるかい?”
岐阜から来ているという 60代のご夫婦のご主人が ウェイターにたずねている。
”あります、大きいのどうです? いっしょびんね。やすいね、まいにちのみますか?”
どうも ボトルキープのおすすめの様だ。ワインの好きな鷹也もちょっと関心持って きいている。
色々聞いて 頼んでみることに、したらしい。隣の一人旅らしい女性が ”日本酒までのせているんですね~それも一升瓶”と 面白がりながらも感心する。
”ねー、本当に、日本発だからじゃないですか、めしあがられます?
と 返す、那美に 少しは飲みますが、わざわざ、こんなところでどうかしらと
楽しそうにくすくすしている。
”一人で来ていますから 酔ったりしてはたいへんでしょう、ねえ”
那美は日本酒は飲めないほうなので 強そうにいつも思っているので それはそうだとうんうんと うなづき、
”おひとりですか?どちらから?
”神戸です、母を誘ったのですが 船は酔うかなとことわられまして、わたしが チェックしていくことになっているんです。大きい船は よわないって ネットなんかでも書いてありますけど、じっさい行ってみないとね。
”そうですよね、そういうかたおおいですよね。私たちは 東京からです
そうこうするうちに 食事が 運ばれてくる。
どれも美しい、盛り付けが シンプルな ロゴ入りの白い大皿の上で おいしいのよと 自慢げにのっている。
“なかなですな、うわさにはきいておりましたが、やはり高級ホテルのレストラン並みの 食事を海の上で だすんですな”
日本酒のご主人は ニューヨークカットステーキが 気に入ったらしく ご機嫌である。
”ですよねー これだけの人数ですから大変ですよね、それにしても スープはしっかりしていたな、ちゃんとアスパラがはいってたきがしますね。
と 鷹也も同意することしきりである。
”ほんとうにね、おいしいものをいただけて こんなに立派な船で 何もしないで リゾートライフなんて 主婦にはゆめのようですわ。
ミセスのほうも 丁寧に調理されたスズキのグリルのソースを味わいつつ、しみじみうっとりの気分である。
那美もおなじように、船は 何とらくなのかと 思いはじめていた。
鷹也も那美も旅行好きなので あちこちずいぶん出かけているが フリーで行けばついつい 食事のことは考えてしまう。主婦にはこびりついた宿命で 朝を食べれば次の昼を、昼を食べれば 次の夜をというように 常に考えてしまう癖になっている。
ツアー旅行では ついてはいても時間がなくゆっくりできなかったり、 作り置きの料理をまとめて 食べさせられるような パターンが多い。
船では 時間に行きさえすればおいしい食事がサービスされるのである。
別にご飯目当てで乗っているわけではないけれど、人間腹のおさまりは大事であるし、
上げ膳据え膳は 昔からの主婦の夢である。
そして、 しなくてはならないのは 着る物のことを考えるくらい。
子供のころ、お姫様のように、何もしないで ドレス着て、遊んで暮らしたいなといっていたら、母にお姫様は しちゃいけないこともたくさんあるし、好き嫌いも言えないし、そんなところでごろごろできないからいいことなんかないわよと
よくいわれたものだ。
そうすると、この船の生活、きれいな服(好みによるが)着て、食事は たべさせてもらえて、遊んでいればいいというのは 究極のお姫様ライフじゃないと 那美の胸もときめきだす。
ああどうしよう、はまってしまいそうな自分が怖い
セビーチェのドレッシングに舌鼓を打ち コンソメチェックもよし、 チキンの焼き上げと柔らかさの 具合がよくて 添えられたローズマリーが 風味よく、再度ディッシュのマッシュドポテトが禁断の糖質なのにもかかわらず、悪魔のおいしさである。
”なんでも おいしくていいなあ”と 鷹也もつぶやく。
となりのおひとり様レディは メニューがきまって 向こう側のやはり一人で来ているらしい、男性に気軽にこえをかけている。
男性のほうは ちょっと、人見知りらしく、 ええ、はあと うけている。
初日のテーブル、 社交生活になれない日本人テーブルは なんとなく、面はゆく、そう、話も弾まない。
外人のテーブルは 笑い声もたっているようである。
まだ、初めての夜、でも これからどうなるかしらと 那美の興味もいろいろ移っていく。
鷹也ほどでもないけれど、 そんなに引っ込み思案ではないから 大丈夫だろうと 飾られた生花のうえから テーブルをみわたした。