小説クルーズパラダイスー太平洋横断二人旅エレガントシップは北上す

”ああああ 手がつめたーーーい

”だから 手袋やっぱりいるでしょ かたっぽする?

鷹也がにやにや 憐みの笑みで 片手をあげる。

”みんな、歩いているからへいきと思ったのに。でも

かして、ありがと。

那美は むっとしながら、借りた鷹也のニット手袋を がばがばとはめた。

残りの右手はポケットに押し込むしかない。

鷹也も左手をコートのポケットに押し込む。

アラスカへ向かう、太平洋横断のクルーズのウッドデッキ。

今回は elegantな

ミッドサイズシップでむかう、太平洋横断後、アラスカで 氷河をみてバンクーバーにいくもの。いわゆるリポジショニングだが 遠くに不都合はない。

日本では 大々的に売り出されていないので 鷹也が ネットで 見つけてきたのだ。

日本人は少なく、リタイアの教師などが多いという評判で 確かに 全体がおちついた 大人の多いクルーズである。

広大な図書室には ちゃんと専任の司書がいて 北欧製の人間工学ばっちりのような くつろぎ椅子がずらりと並び、

そばのcafeでは 静かに ジグソーパズルを楽しむカップルや、 トーンを落した談笑するグループが居たり、今までにない、空間がある。

混み合っていないので、 リドの食事の席も楽に選べる。船長や、ほかのオフィサーをよく見かけるのもこの船の特徴だ。

いままでの 船では 何かのイベントの時しか 会うことがあまりないキャプテンがあちこちにいて 顔が合えば ニッコリ会釈を返してくれる。

すれ違えばもちろんあいさつを交わすのだが 素敵なジェントルマンの船長を見かけることが多くて那美はなんだかうれしい。

船長が バフェで食事をしたりしているのを見かけたりすると 何だか、このバフェはちゃんとしているような気になってくる。

別にないもおかしいわけではないがキャプテンも一緒のもの食べるのかとおもうと何か平等な気がしたリもする。

キャプテンがごちそうたべてるわけないだろうと 鷹也はいうのだが、

どうも カジュアルな船では スタッフのほうがいい食事をしてそうだと思うのが 最近の那美理論だ。

鷹也は そんなことはなかろうと性善説的意見ではあるが 那美はクルーズに行くたびにその思いが強くなる。

まあ、お客は遊びに来ているわけだし、スタッフ元気で 一番いいわけですしと それなりの納得にたどり着いているが

ドレスマニアの那美としては メインレストランのディナーで 着るものを考える楽しみは ぬかせない。でも、おいしいものがあるのがバフェであるならおいしい物にも魅かれ、こころ乱れてしまう。

鷹也はしゃれ物で だいたい ディナーなら、素材感や遊び感はかわっても ジャケット着用だし、日本人のオヤジにしては まあ 着るもの全般に気を使っているので、来ておかしげなものなどは もともと もっていない。

でも やはり、デイナータイムにスマートに洒落て食事を楽しむのは 船の醍醐味だし、これって 船へのリスペクトと 那美は 思うのだ。

何にしても 今回の船は 全体にエレガントで ”船旅”という言葉が

しっくりするもので うっとりなのである。

それにしても春の終わり、かれこれ 4月になろうという季節だが やはり 北上しているから寒いのだ。

たくさん、着るものを用意してきてほんとによかった。

アラスカは きっともっと寒いと予想される。

初めて乗った船なのに、バスタブ付きの部屋で シャワーだけでないことも

寒いとこに連れて行くよといわれているようにもおもえる。

バスタブありがとうである。

 

小説クルーズパラダイス―横浜から南へ出港

“いやいや~ なかなか まじめな訓練だったねー こんなに本格的にするとはしらなかったよ。海軍のようだよ、さすが船旅だな。”

鷹也は あたらしい体験に興奮気味、那美も このちゃんとした避難訓練に 驚きはやはりかくせない。

”ほんとよね、 背の順にならばされたり、全員揃うのがこんなに大変とは おもわなかったわ、結構たたされてるじかんがながくて 年配の人なんか気の毒だったよね。小さい子も退屈しちゃうし 真剣なものだってもっと のる前に 触れ込んでおいてもいいかもね”

3000人もの乗客なので 一か所ではなくあちこちを マスターステーションときめて そこに集まるのだが なれて さっさと 行動する人ばかりでは なかったので 人数確認に時間が けっこう掛かった。若そうな外人や日本人のスタッフが何人もで 無線で 連絡しあっていたが なかなか始まらないし どうしていいかわからないので みんな何となく手持ち無沙汰に待っている。

しばらくして集まったグループの中で 背の順にならばされて 数を確認していた。クルーズカードは 読み取り機にかけてあるので、ずいぶん念の入った感じだが、クルーズ船はめったに事故を起こさないし、トラブルも少ないけれどもしものことは いつも考えているのかもしれない。

そう思えば 安心なので、我慢我慢とまじめな那美は あくびをおしころした。

結局、日本人のグループが 代表だけ参加すればよいとかんちがいして 集合場所に来なかったらしく、 集まっていた仲間の携帯で 連絡がついて うまくおさまった。

日本は ほとんど発着クルーズなどなくて わけのわからない乗客がおおかったから 仕方がないにしても なれた方には 申し訳ない話である。きっと

添乗員も旅行会社もよくわかっていなかったのだろうから この先よく 客に教えておいてほしいと思う。

”そろそろ 出港かな ベイブリッジくぐるの 見に行こうか”

二人は 部屋にライフジャケットをもどして またエレベーターに向かう。

だいたい部屋の位置は 船の前方に三分の二ほど言った部屋なのだが 3か所あるエレベーターの一番近いところでも けっこう距離があるのだ。

船は出港近くらしく、 エンジンの振動が つたわってきている。

エレベーターは 上に行く客で結構な混雑だったが なんとか のせてもらって

プールのある14階にあがって みんなで どっとおりて デッキサイドへ向かう。

BO0000000

大きな汽笛をならして 船が 進み始める、数分で ベイブリッジをくぐるのだが プールサイドのでは バンドの演奏で スタッフと乗客が 踊っている。

これがウェルカムアボードパーティらしい。

“ほら上、うえ”

とすると デッキ中の人が 上を向く、そこには ベイブリッジがあって すれすれに 通り過ぎるので イベント状態になっているのだ。

わぁぁ~と 歓声とパラパラ拍手も沸き起こる。通りすぎて入港したから出られるのは当たり前と思ってい那美に 潮位で高さが 変わるからね けっこうリスキーだよと 鷹也が講習してくれた。なんでもよく調べる男なのである。

そっかーと うなづきつつ海原に目を移すと 暗くなりつつ海の向こうにある陸地を前景に夕日は沈んでいこうとしている。

海風もそろそろ、冷たい。

入って食事に行くしたくしなくちゃと 景色に 浸っている鷹也を促して

デッキを歩き始めた。

小説クルーズパラダイス―クルーズライフルーキー

那美も鷹也も旅行に出るのに 豪華なホテルなどにはあまりこだわらない。

国内などは 駅前のビジネスホテルをとるほどだ。

なので 結婚式のし出席とか 友人とランチなどの時以外は 都心などの高級ホテルに足を踏み入れることも ほとんど ない。

で、この 乗り込んだ世にいう豪華客船の豪華さは どうだろう。

本当に船とは思えない空間の広がりに 宇宙の星空のような 装飾の 広い吹き抜けが広がるロビー。

”へえーすごいね。うわさどおりかな”

”ほんとよね”と カーペットの引き込まれた ホールの中をエレベーターにすすんでいくと これもまた ガラス張りの鳥かごのようなかわいらしい形で すうぅと上下しているのが みえる。

カーペットの淡いベージュにあわせた 少し光沢を抑えた金色のドアのエレベーター。

乗り込むとやはり荷物を持った外人のカップルが ”ハロー”と にっこりする。

同年代くらいの 大柄の二人が 腕を組んで乗り込んでいるのが愛らしい。

こちらも”ハーイ”と かえして にっこりする、コミュニケーションの一歩目は これである。

わたしたちは8階のドルフィンデッキ。あちらも同じ階らしく8階ボタンが 光っている。

4階のフロント前から入ったので 4フロアーほどほかに止まることもなく

上がって

”ドルフィン”という 音声で空いたドアから 降りるとあちらは反対側のデッキらしく別れ際に”Have a nice day!”とこえをかけてくれた。

そこで”You too!”とかえす。コミュニケーションです。

やれやれ、ながい廊下だねと つぶやく鷹也のほうを見返せば 確かに 果てが見えないくらいの廊下が つづいている。

わたしたちの部屋は 番号から行くとずいぶん前なので、 だいぶ行くことになる。

それでも、ひっぱっているキャリーが動きにくいほどのカーペットのひかれた 廊下はここもなかなか 豪華である。

通り過ぎるドアの横に レターラックがあり部屋番号が書かれているので それを見ながら進んでいって 5分は歩いたとおもいながら、クルーズカードを差し込んで ドアを開ける。

インサイドキャビンを選んだので、窓はなくなどに当たる部分が鏡になっていて

反対側のテーブルの上の鏡とあいまって、部屋が広く見えた。

何時も、適当にとまっている、ビジネスホテルなんかよりは とてもいい部屋である。

ドア付近は狭いが 入ってすぐの壁に収納や金庫があり 反対側はシャワールームとトイレと洗面台がコンパクトに収まっている。

そのほかにウォーキングクローゼットがあって たっぷり服がかけられるようになっている。

この仕様、初めて見たときに、便利さに感動したのを那美はよくおぼえている。

なにしろ、スーツケースの中身が 空にできるのだ。

ツアー旅行で 海外もずいぶん いったふたりだけど、たいてい、旅行社の主催するツアーはとても忙しくスーツケースも出すのは必要品くらい、夜討ち朝駆けならぬ、夜ついて朝早く出発で エジプトのアガサクリスティのとまったというホテルに行ったときも 建物の姿も見ることができなかったくらい。

荷物全部だして ゆっくりしていってねといわれているような 気がしてくる。

きれいにメイクされてあるベッドの上には 今日の船内新聞 オンザボードが置かれ、小さなカードに パールスターにようこそ!とかかれたものがそえられている。

先に宅配便で送った荷物は まだ届いていないようだ。

これも船の感動の部分。海外旅行で 成田に行くのにも 最近は 宅配で空港まで おくれるが、 飛行機には 自分でのせなければならないしテロ以来の厳しい重量制限もあるし、液体の管理もうるさいし、おりてもホテルまで 引きずっていかなければならない。

横浜出発のクルーズは 家から宅配で部屋まで 届くのだ。桟橋ではなく部屋まで届くので、あとは残りを自分でもてるぶんだけにすればいいし、重さ制限もないのである。帰りだっていざとなったら部屋から段ボールで出して そのまま宅配でおくればいい。

那美は普段から 小さく荷物をまとめるのが 苦手で つい心配になってあれこれ入れてしまうので このいくつ持って行ってもいいのが いたく気に入った。

鷹也は”そんなに何、持ってるの、9日間だよ”と うるさくいつもいってくる。

鷹也自身は芸術的なほどにパッキングがうまく、荷物も少ない。なので 半分呆れた雰囲気で いつもそういってきて 那美を いらいらさせる。

実際は 那美の大荷物の中のウィンドウブレーカーを貸したりしているんだけど

結局、殿様感覚の強い鷹也に その点を突っ込んだ言い返しをすると とんでもない反応が 帰ってくることがわかっているので 、

”いいの 荷物が多いのが好きなの”と できるだけいなして 自分のいらいらは しょうがないわ袋にしまってしまうのである。

結婚生活も長くなるとこのような 袋を 持つことが できてくるものなのだ。

とするとノックがされて ”ハウスキーピング”と こえをかけてきたので 開けると 可愛いエプロン姿の女性が にこにこしている。

彼女は この部屋の担当で マリアさんといってペルーから来ているらしい。

可愛い、ワンピースの制服にしっかりアイロンの利いたエプロンをきりりとしめてなんだかやるきまんまんの お嬢さん。頼りになりそうなかんじである。

なにか、あったら言ってくださいと たどたどしい、日本語で 自己紹介と 非常訓練のお知らせをしてくれた。

ふと横を見るとドアわきに スーツケースが届いている。

”ありがとう よろしくね”と ドア横のスーツケースを取りに行く鷹也のためにドアを ささえながら いう那美に きゅめいどうきはわすれないでと 金庫の上のオレンジ色の ライフジャケットを さししめして マリアは となりの部屋の移動していった。

”ちゃんと届いてよかったねー”とさっそくベッドの上にスーツケースを広げて 鷹也が 喜んでいる。

那美派クローゼットのほうで 広げようかと思っていたが おもいなおして 船内新聞を手に取った。

”これね、4時45分に 集合場所のステーションに集まるらしいわよ、必ず全員参加なんですって、で 場所はね ドアとクルーズキーにかいてあるんだって、”

確かにカードには ステーションAとある。そしてドアにはよくホテルなどにもある非常経路のような図がかかれていた。

”トイレ小さいねーシャワールームも 狭そうだなー”ペシミストの鷹也チェックは

バスルームでシェーバーなどを 並べながら声をかけてくる。

”ま、船だからね、あるだけまし”と返す那美は 訓練の説明文を読みながらいった。

英語の実力は那美のほうが 上なので あっちこっちで 添乗員の役をするのは 那美の旅の日常なのだ。

窓がないので、時間が良くわからないのだが 時計を見ると そろそろ、2時をまわるころだ。

”ねえ荷物適当にして 上にお茶のみに いってみない?”

いこういこうと いう鷹也にクルーズカード大丈夫と念を押して 二人は 部屋を出た。

クルーズカードは 旅行会社から送られてきたホルダーにいれて 首からかけてもってあるく。

何が大事といって 船の中でも外でもとりあえず一番大事なのは クルーズカードである。

部屋から出た二人は 一瞬どっちだっけと 見まわし、こっちと 来た方へ 歩きエレベーターへむかった。後ろの方で マリアが別の部屋に声掛けをしているのが聞こえる。

なかなかいいじゃない 那美は 胸が 高鳴るのを聞いていた。