クルーズパラダイス―鷹也の初船酔いで中国3000年の知恵に出会った日

”ねえちょっとさあ 何だか変だよ

心細げにささやく鷹也の声に那美が目を覚ます。

”ええーなにぃ?

まだ 昨夜の余韻が残っていそうな クルーズの朝、船は 先日の台風の後の余波で 結構、ゆりかごな雰囲気に揺れている。

なんだか、 気分が・・という 鷹也は おやおや シーツに同化したカメレオンな 青ーい顔になっている。

”いやだ船酔いじゃない? いままで 酔ったことなかったよね?

”そう思う、人生はじめてのさいていの 気分のわるさ・・・

もうおわりなんだろか・・・

ほーら、男子はこれだからと 那美はむねのうちでこそっと笑いそうになった。

どだい、丈夫な出来の鷹也は 胃腸も呼吸器も健康で 風邪もひかないつわもの。もちろん。ジェットコースターだろうが 飛行機だろうが 酔うなどと頭の片隅にもない超人類。

でも 来たんですね,たしかに昨夜のワインは 強くて ボトルの飲み残しがもう少しで 那美が あまり そそられなかったので だいぶぐいぐい いってたのは 気が付いていたけれど。

まさか船酔いとは?

アジアを回る ロングクルーズだがまだ序盤。秋の初めで、台風が 名残を惜しんでいる季節なので海もしけがちである。

で、そんな健康な人が 普段体験しないことになるとどうなるか、こうなるのである。

しおしおと 枕にうずまって おきる気などまったく起きないと ささやくのである。

”もーでも こういうときは 何かお腹に入れたほうがいいのよ、なにか 食べられる?吐き気は?

”食べ物は 僕の人生から 消滅してもらって構わない、 もう 今日は おきられない・・

”まあまあ、そういわず、なにかあとでもってきてあげるから・・・酔い止めはなかったかな

那美はベッドで シーツとの同化を図る鷹也をしり目に さっさと着替え始める。

おっとっと ゆったりだが 大きなうねりがあるようで 足元が ぐうとゆれている。

”ゆれてるね 台風後だからしょうがないし、 もっと南にいけば おさまってくるよ、きっと、まあ シーデイだしねてたら?

朝ごはんから 何か持ってきてあげるから。

そ・・そうするぅ 同化は成功中。

着替えと軽いメイクを終えた那美は リドに朝食に上がるために腰を上げる。

”なにたべたい? どうせ冷えちゃうけど、トーストかなにか?

”いや、何もむりかなーどうせなら メモとボールペンくれれば 遺言かけるかも・・・

”そんな 馬鹿言っているようじゃ まあへいきねじゃちょっといってくるわ

シーデイの朝なのにリドが 人がすくない。

”Good MORNING MUM! あさから 元気なインド人のマラクが声をかけてくる。

”ミスターはどうしたの?あとからきます? 4人せきがいいですか?

なかよしになった リドのウェイターのマラクは さっさとアイテル席のいいところをさがしてくれる。

”今朝はね一人だから、二人席でもいいわよ。ありがとう!

朝一のコーヒーをもって 窓際の二人席にむかって マラクについていく。

もう朝日もすっかり上がり、天気がよいので 海がきらきらひかってみえるが 三角波が 立っているのでやはり多少しけているのだろう。

”ミスターはね、船酔いなのよ。
”いつも酔うんですか?お気の毒に

”いやいや、人生はじめてらしくれねー めげてるのよ、男子はね こういうのに弱いのよね

”わかります、わかります、と マラクは 半分心配の半分笑いそうに同感してくれた。

”オフィサーでも酔う人がいるんですよ。乗船して出港したらまず一番に 舳にたって 水平線に向かってヘう意向に手を挙げてじっと視線を揺れる水平線に合わせるんだそうです、それを、10分くらいしておくと後はもう酔わないとか、本人から聞いたことがありますよ。ミスターもぜひされるといいかも

”ありがとう、今は ベッドにとけこんでるから、復帰したらいっとくわ。

酔う人は どこにでもいるのねと那美は おかしくなるのが我慢できない、にやにやしながら オムレツコーナーで 2個分の目玉焼きをオーダーする。

ここでも ミスターはどした?になる。

日本人は カップルでの乗船が少なともにしないいうえ、たとえカップルでも那美たちの様に行動をともにたとえするひとが 少ないのでみんなの印象にのこるらしい。外人は カップルが当たり前だ

”今日はねー船酔いなのよ。何か、食べ物を部屋に持って行ってやろうと思うんだけど、何がいいかな?

やはり、船の上のことは 船の上が長いスタッフに聞くのが 一番と オムレツがかりに声をかけた。

”あー船酔いね、はいはい、フルーツがいいよ、リンゴなんかどう?

それとね、下の売店で 酔い止めのリストバンド売ってるから、つけさせるといいよ。 で 、PLEASE!と ささっとリンゴを1個むいて お皿に盛りつけて渡してくれた。このサービスがうれしいと那美は お礼を言って テーブルに向かう。

これを食べたら売店に行ってみなきゃ。

部屋に リンゴの皿をもって戻るとシーツ人に声をかける。

”どう? リンゴがいいんだって,スタッフがむいてくれたわよ、何か食べたほうがいいって、それと、売店で酔い止めバンドうってるらしいから みてくるね

”ありがとおお いただくかな~

くまったちゃんが むっくりおきて リンゴに手を出す。

”たべといて、たべといて

那美は皿を わたして 売店に向かった。

所謂、お土産屋 日用品なども売ってる、キオスクだが スタッフにかくかくしかじかがほしいというと さっと自分の腕をまくってみせた。

”これでしょ!私もずっとしてるのよーききますよぉ

隅の携帯の充電器などが 固まってかけてあるラックに 2つ入りパッケージで 酔い止めバンドが あった。

子供用のヘアポニーにつかうような ポリエステルの生地でできた わっかにぽっちり 白いプラスティックの出っ張りがついている。

レジに持って行っていくとこのぽっちをツボに当てて、酔い止めを止めるとか。

説明も全部英語の海外仕様である。

日本人は知らない中国3000年の知恵で 皆、救われているのが グローバルで 面白いなあと感心し、カードをわたした。

”これできくって やってごらん。

鷹也のごつい手首に つけたお子様ポニー状の 酔い止めは ひどく心元ない感じがしたものの きけば すごいよねと 言われた通りに 手のひらの付け根から指2本を当てて寸法を測ってやりながら、本人じゃなくてツボは 合うんだろうかと ちょっと?におもいながら位置を たしかめる。

“窮屈じゃない? ここでいいらしいよ。しばらく様子見て。もっと何か食べる?

”いいですう 紅茶だけ入れてくれるといいなぁ

ほんと男子は こういう時は おとなしいし、なさけない。

”ありがとおお 那美さま、那美どの なおったら、おきるからあ 感謝感謝ですぅ

”じゃあね ごゆっくり 私は トリビアでもしてくるから昼前にはもどってくるからね。

まいあさ、エクスプローラーラウンジでする トリビアも人が少ない。

エンターテインメントチームの ニッキ―も今日は すくないねー

みんなよったかなーと ふふっと 笑って では 船酔いなどにならない強いわれわれで 楽しみまーす!と元気がいい。

那美も楽しいくらいで まったく揺れには強い。

見渡すといつもの顔ぶれも 男子が少ないような。

全世界 男子は 酔いやすいのかも、これはアダムの遺伝子のなせる業?

きっと みんな 男性が酔いやすいから 中国のツボ研究も進んだのかも。

古代バイキングとか ギリシア人とか 大昔どうだったんだろう、船酔いのバイキングを思い浮かべて 笑いがこみあげる那美だった。





 

小説クルーズパラダイス―大自然の偉大さにひれ伏した男子の巻

この 轟音は なにに例えればいいのだろう。

船の前方から響き渡る 雷が10個も落ちたというか、自爆テロ?と ブラックにふざけるか、デッキ歩きの最中の那美たち二人は 驚いて足をとめた。

”もしや、これは 崩落音?もう着いたの?

”行かなきゃ行かなきゃだよ。

そろそろ、つく頃というキャプテンのアナウンスは聞いてはいたが この 轟音のお迎えとは。

季節もまだ浅いので なかなか、崩落は 時間がかかると 思っていたのに、早くもである。

船首にかけつけると 何時もは しまっている 船の真ん前のデッキがひらいて 多くの乗客が 詰めかけている。

ほらほら こっちこっちと スタッフが 手招きしてくれる方へ 駆けつけ デッキに出ると小雨交じりの悪天のなか、みんな携帯やタブレットを掲げて 船首で 待っているのだ。

那美たちも何とか隙間を見つけて 船べりに張り付く。

船のエンジンが とめられているのか、ひそひそと 話す声がしても 皆、結構静かに待っている。

目の前には 巨大な氷の壁が 遠くまで続いていて これが氷河の断面である。

その氷河が氷河なゆえん、川なのでゆるゆると前に流れてきていて ある拍子に 轟音を立てて崩れ落ちる。

今回のクルーズのメインイベントではある。

那美も映像も写真も見たことはあったけれど、この大きさと この崩落音に度肝を抜かれたっといいたくなる気分になった。

鷹也など、あごが 落ちかけている。

まるで はじめて 動物園の象を見た子供のような 顔である。

音もなくふっている こまかいみぞれ交じりの雨に これだけの人が シーンと して 崩落を待っている、そして 崩れると おおおと小さい歓声が上がり、拍手も聞こえてくる。

大自然のショーという 軽々しい言い方で表すには すこし偉大過ぎるようだと 那美は思った。

また少し、小さく崩れるとみんなが ほうっとため息をつく。

だいぶ冷えているので、中には 撤退していく客もいるし、あとから来たひとに 前をゆずったり、 すこしずつ 変わりあいながら みんなで この イベントを楽しんでいた。

この大きな船が 氷河の流れに押されてすこしずつ動いているのを 感じる。

”ねえ、船推されてるよね、

”やっぱり、感じる?ぼくもそう思って居たとこなんだ、 すごいちからだよねぇ

鷹也のあごは しまったり閉じたりしているが どうやら 話は できるようだ。

深くおろした ジャケットのフードも 役に立たずに、顔に吹き付ける小雨が つめたくて顔がこおりそうになっている那美は

(アイス美容があったような)など、つまらないことがうかんできてしまった。

確かに、温度はひくく、海がシャーベット状になっている。

海水は塩分をふくんでいるので なかなかの低い温度ということだ。

6回ほどの崩落をみて 那美が音をあげた。

”そろそろ、一度はいらない?グリーンピースのスープとかって 飲んでみたいじゃない?

”あ、そお? いいよ、いこか?”

見とれていた お子様状態の鷹也が あわてて うなずいて見せた。

どうやら、この世にもどってこられたようだ。

ふたりは 頑張る乗客を後に室内に撤退する、手も顔も、きんきんにひえきっている。

中には 緑のスープが入ったカップが並んだ トレイを持ったスタッフが 待ち受けていて にこにこ、配ってくれる。

とろみのついた グリーンピースのスープで 温まるのが伝統だそうだ。

ちょっと、冷めてはいるが カップを持つ手も心地よい。

”あのさ、話があるんだけど”と 鷹也が いきなり、真剣な顔で 切り出して

スープおいしいわ~と ほんわかしていた那美は ”エー何?

と 何だか、成り行きについて行けていない。

”なんだか、人間て小さいなって、それで なんだか、自分も小さい奴だったんじゃないかっておもえて・・・

だから、那美に小さい奴で かけてた 迷惑とかいっぱいあるんじゃないかって

おもえて ・・・

だから、だから

全部 もうしわけないっ! ここで ゆるしてやってくれっていいたかったんだよ”

”なに、なに、 どしたの?

許すも何もないでしょう。

もちろん、お受けしますけど。”

ごちゃごちゃ質問してもしょうがなさそうなシチュエーションに

鷹也の突然の告白ともいえない、お詫び宣言。

へへー 氷河様は 男子にバウリニューアルさせる力が あったのねー

なんだか、大宣言をした 元少年一名、鼻息荒くもスープに苦戦中である。

”ねえ、これ熱いねえ 猫舌なんだよなーあちあち・・

大自然が偉大って こういうこともあると スープをすすりながら、 那美は遠い崩落音に耳をすました。

小説クルーズパラダイス―寒いデッキであついおしゃべりを

コツコツと なるウッド製のデッキで歩く乗客は おおい。

音はいいが 意外と足触りは柔らかい。

方向は 一応前から後ろだが 決まったことではないので 逆から来る人も

また回らず片側往復の人もいるし様々である。

ふたりは 一応前から始まって 後ろからむかい、 くるりと船を一回りし、何周はするのだ。

”いやいや、覚悟はしていたつもりだが 、もうすでに寒いなー カリブが懐かしいよ。

細身で 脂肪の少ない分 寒さがしみるらしい鷹也はぼやいた。

“カリブはねー 暑いくらいだからね。私は暑いカリブもいいけれど この寒いキーンとしたかんじもすきだなー 空気がきれいな感じがするじゃない。

それにしても・・・と那美の中にカリブの思い出が するすると でてくる。

*********

”スイートってこのあたりかしらね、なんだか、入り口豪華なキャビンが並んでいるよ。

プールのあるリドデッキにほど近いフロアーは suiteと きいている。

プーるサイドのお喋りで 親しくなったアメリカ人のリタイアカップルに部屋に食前の一杯をやりに来ないかと誘われたのだ。

”えーと、たしかケンメリ―ならぬ、ジムメリーだったよね。

この名前がそうかな?

目の前の部屋の入口にjamesとmaryの 名前が ならんでいる。名字は アトキンソンとなっているが 名前しか聞いていないので 多分あっているというところ。

キャビンスチュワードと思しき、インドネシア人のスタッフが出てきたので

”こちらは Mr,jamesとmisMaryのお部屋かしらときいてみた。

わたしたち、ご招待を受けているものなのだけど。

彼は那美を上から下まで じっくり品定めをしてゆっくり、

”いまお部屋にいらっしゃるから聞いてまいりますと

ふたりにまて!をさせて 部屋に戻りすぐに ニコニコとジムが あらわれた。

”Nami, Takaya!good evening ,welcome welcome

ささ 入って入って、と長い腕をふりまわして 二人を招き入れる。

ホテルのスイートと変わらない感じだが バルコニーの向こうに 輝くカリブがあるのが さすがクルーズである。

マリーも ジムもハグハグと 親し気に 二人をバルコニーへとさそう。

ここで 何か飲もうか、今日はあまり風が強くないからね 、何がいい?

ふたりは 前後して 赤白のワインをお願いあい脇に控えたバトラーの青年に 注文をたのむ。

そう、バトラーだったのだ。

この船のスイートはバトラーがつく。あこがれのスイートライフである。

バルコニーには 濡れての良いタイプの2脚並んでいるので 向かい合わせにカップル同士で すわって、 おしゃべり開始。

鷹也は仕事でも使うので 特に話には困らないが那美はときとして 聞き返したりして 話題を続けていく。

海軍退官して アメリカのニュージャージーに住んでいるというジムは 感じのいい アメリカのおじさんである。

プールで泳いでいて 知り合った、マリーと那美が 上がってからお互いの伴侶を引き合わせ、なんだか意気投合してしまい、お招きを受けた。

カリブ海のバルコニーは さすがに シーブリーズも気持ちよく 夕焼けが 遠くに始まりかけて 海が夜への衣裳替えの真っ最中である。

”いいですねーバルコニーに来たのは初めてなんです

那美が喜ぶとマリーが

”ここはいいわよね、でもアラスカとかは バルコニーから隙間風が入って寒いのよー場所によるわよ。暖房があっても海って寒いんだから。

うんうんとジムも賛同する。

でもカリブ海は バルコニーがあってもよかったなと那美はちょっと残念感がある。

飛行機もとらねばならないので、リーズナブルな クルーズでも合わせれば結構な

出費になるので、数をこなしたい那美は ええいとばかりにインサイドにしたのだ。(いつかリベンジね)と 頭の中のメモに書き込んでおく。

飲み物と エビのカナッペがとどいて メンズは ジムのもっているワイナリーの話に盛り上がりつつある。

ワインも飲み口のよいなめらかなものがとどいた。

カリブ海の蛍光を帯びたような 海も 夕闇の中にとけると 暗い艶のある波になっていく。

バルコニーで 一杯やるとかって なんだか クルーズ本懐よねと 那美は

沈む夕日を目で追った。

***************

”あの カリブのバルコニーは 良かったよなー 程よいあったかさでさ、

でも昼はいただけないかもしれないね、暑すぎるかな、ここで思い出すと

どう、すこしあったまる?

”ほんとほんと、でも やっぱりここは寒い、クルーズ選びはいろいろな面で お考えいただくのが よろしいですよ、お客様?

”うーん、良く、気をつけるよ。

と デッキで 大きなデジカメを 掲げた ニールが 手をふっている。

”あそこのブイにアザラシが乗ってるよ”

言われた方を眺めるとドラム缶の上に灯台がのっかったような感じのブイの根元に

アザラシが 2匹昼寝をしている。

しきりにシャッターを切るニール。

後で トリビアの時に タブレットで 見せてくれるといって そのまままた二人は通過して歩き続ける。

”何周め?

”まだ 3周かな、

”10周はしなきゃ、 那美は ニット帽を 目深におろす。

風が冷たくデッキを吹き通っていく。

途中で みえる、レストランでは デイナーの支度が 忙しく行われている。

 

 

 

 

小説クルーズパラダイスーカリブの風は何色?

”はああ~やっとついたわね~

”ああ とおかったね~ おお、フロリダの陽ざしがきつい・・・

生成りの 麻のジャケットの腕を顔のまえにかかげて 鷹也が 日差しをよける

今回、二人がやってきたのは アメリカのフロリダ、フォートローダデール。

1週間のカリブ海クルーズの 出発地である。

日本からは 太平洋を越えて アメリカの東海岸にわたり、トランジットを2回、やっとの思いで 到着した。

最後のトランジットのアトランタでは 街のホテルに出ようかと思っていたが

空港近くは 何かのイベントがあったらしく 値段が 高騰した上に 部屋がなく

仕方なく 空港夜明かし体験をした二人である。

春も深まった3月末の 日本を出発なので まだ雪があったりするボストンや そこそこ涼しい アトランタ空港をへて たどり着いた フロリダは常夏の陽ざしさんさんで 空港まえに並んだタクシーは スモークの窓を光らせている。

フォートローダデールは クルーズ船の発着場所として有名なところ。

カリブ海へのクルーズ船の多くがここを起点に出発するらしく、思ったよりこじんまりした、空港の出口周辺に 船会社のブースがみえる。

係員もあちらこちらで 旗をもって誘導してお客が 並んでついて回っている。

ふたりも今回は 船のトランスファーを頼んだので 係に拾われて 時間待ちをさせられている。アライバルゲイトの外は もう すっかり、フロリダらしくエアコンが効いていないところは 懐かしいくらいの 真夏の雰囲気である。

いくつかの飛行機のお客を 集めてから 荷物をもってバスへと 移動。

大型観光バスでの移動、ハワイを思い出すような フロリダのハイウェイから

殺風景とも思える、クルーズのターミナル方面へ。

コンテナが積んであったり、燃料のもののようなコンビナートなどが並ぶ

道へおりて埃っぽい中を走っていくと 遠くに確かに クルーズ船がずらりと並んでいる。

アトランタで しっかり寝られなかった二人は うとうとしていたが その居並ぶ船に那美がきづいて歓声を上げる。

”ほらほら、 あそこ、あそこ、 あれはノーウェジアンね、ホーランドもいるし、

あのマークはプリンセス!

確かに広い岸壁だが、巨大なクルーズ船が ちまちまと縦横に詰まっている景色は

何だかかわいらしい。

”すごいね~さすがなフォートローダデールかな、鷹也もサングラスの奥から

へええと みなおしている。向こうに見えるのは めざすセレブリティ。

今までのアジアや日本とは違うクルーズといえばカリブ海というくらい メジャーなクルーズのメッカともいえる場所にとうとう やってきたと 子供みたいにワクワクの那美なのだ。

アンのおしえてもらったアメリカのサイトで いたくリーズナブルだったうえに カリフォルニアにいるおばの住所も借りられたので スムーズに 予約もうまくいった。

何でもジャパンプレミアムなので 海外で買えるのは インターネット時代のお得でもある。

クルーズにはまった那美としては あこがれの聖地でもあるカリブ。

何度もいったことのあるハワイでも いつも 飛行機から降りると独特の香りがあって

”ハワイに来たー と感じるけれど、ここでは また違う南の香りがするような気がする。

ターミナルをぬけながら 飛行機疲れが 暖かい風に吹き飛ばされていくような

かんじがして 足もかるく 船を みあげて 胸が高鳴る那美だった。

 

 

 

小説クルーズパラダイス―クルーズの魔力にとらわれて

船はよるをすべり 港へ向かう頃~

”どう?なにかきずついちゃったのかなあ?

まったくひとが センチメンタルにはまっていい気分なのに ちゃかすんだからと

那美はむっとしてみせる。

”いや、なかなかよかったねー 偶然会えたりもしたし、これって縁がふかいってやつだろ、やっぱり ぼくのおすすめは あたってるんだよ

寄港地を後ろに もうすぐ横浜へ向かう最後の夜。

明日目が覚めたら 魔法の国から帰ったアリスのように 現実に到着する。

那美の場合は魔法の国ならぬ 波の王国だけど。

”わたしね~ もう一生船を追い求めてしまいそう。

しっかり、錨おろされちゃった感がある。今まで どこにもこんなこと感じたことないのに。また行くでしょう?

鷹也がいかないなら私一人でも行っちゃいそう。

”おいおい、誰が 行かないって言ったんだい。時間が許す限りお供させていただきますよお。

鷹也はにやにや あくまで からかいモードである。

ふたりで 海外もあちこちツアーとかでいったけれど クルーズは 何か違うものを 彼らの中に植え付けてしまった。

那美は この 先行きどこにどの船でいこうか おりるまえから 考え始めている自分に驚きながらもだから フューチャークルーズデスクがあるわけだと納得したりもする。

クルーズは旅だけど いそがしく移動するというより 毎日自分が ドラマの中のヒロインになったような 気分で過ごせるものだった。

クルーズ自体が 非日常である。またそれが望めば ずっと つづけられる。

でもたとえ、一年乗り続けてもそれが 日常となることは なくて ずっと 魔法の世界にいられるのだ。

この 世界で 一番長くつづく ワンダーランドねと

デッキからみおろすと くれ行く海は 小さい声で くすくす笑いながら 今度いつ会えるのといっているように思える。

”さあ こんどは いつどこへ行こうか?

どの船にする?

”はいはい、では わたくし目にお任せを。いいの お探ししちゃいますよ。

PCなくて 残念しばしお待ちをだ。

さて そろそろ、ラストディナーかな。今夜は着替えないの?

”私は 着替えようかなあ 船にしばしのおわかれだから ご挨拶かなー

デッキのステージで バンドが 演奏を始めた。

潮風は寒そうだが ラストナイトパーティで パッキングが終わったらしい人が

集まってくる。

それぞれが きっと 魔法につかまって 踊らされてるのねーと 思いながら

階段を 降りる二人の 後ろに夜空が 広がり始めていく。

小説クルーズパラダイス―船旅で 人生模様は波柄に

“基隆も なかなかいいところでしたわね”と

テーブルメイトのマダムは すこぶるごきげんである。

“台北にはきたことがありましたけれど、こんな港町でも 結構、楽しいのですのね。お土産もかえましたし、 市場も面白かったし、船ならではですね”と

自分から、今日の寄港地の話がでてくる。

那美たちは 昼間は 船の中であちこちいっているし、その行先がちがうのか、

毎日のディナーのテーブルメイトの日本人とはめったにであわないのだ。

不思議と、仲良くなった外国人とはしょっちゅう会うのだが。

それで 顔を合わせるのは ディナータイムなのだが、 一人で来ていた男性は いつの間にか、姿を現さなくなったので バフェや有料レストランへ行っているのかもしれない。

一人旅の女性は カップルの中で、ひとりになってしまったせいか、 余り話し好きではないようだし、 日本酒好きのご主人の奥様と那美たち二人が 話をするくらいになっている。

その奥様も さすがに ご主人が ぐいぐい行くので ちょっとけん制気分で 時には 余りご機嫌のよくないこともあるようになっていた。

クルーズも後半になり、あと少しのシーデイで 横浜へ向かっている。

でもその中で 最後の台湾の寄港地の基隆が 奥様の気分を変えてくれたので 那美はほっとした気分になった。

鷹也は明るくてお喋り上手だが さすがに一人漫才となるようなことは避けるので

あまり盛り上がらないテーブルだった。

ウェイターもいい人だがおふざけをするようなこともなく 上品に淡々とサービスをしてくれていた。

夜は催しが忙しくて 那美もショーなどに急ぎたいので 余り話しが盛り上がってもそれはそれで 忙しいし、まあ程よくてよかったのだ。

でも 今晩は ちょっと寄港地の話で、にぎわった。

この船では テーブルも時間も決まっているので 同じ顔ぶれで クルーズ中デイナーを食べることになっているがどうも あちこちで 聞いた話では 船によっては 時間が決まっていなかったり、 レストランもあちこちいけたり、二人席で ずっとということもあるし、千差万別になっているらしい。

二人席ならともかく、 人数のある席では 一応礼儀として 食事と会話も楽しまなくてはならないのだ。

カっプルで座ったからといって、二人だけで話のは失礼なので、周りとも、話題を共有しなくてはならない。

政治と宗教の話はひかえたほうがいいなどと書かれたものを呼んだこともあったし

休暇を楽しんでいることになるわけだから、あまり仕事の話も 避けたいところである。でも、なぜか、やはり、仕事をきいたり、 家族事情などに話が向いてしまうこともあって、うまく話を変えたいと那美はいつも苦労する。

鷹也は 仕事の話はリゾートですることを嫌うのだ。

別に隠れているわけでもないけれど、自分の気持ちがくつろげないからということらしい。それでも、 このテーブルでは 結構聞き出されていた。

本人たちも自分の事情を話したくて しかたがないらしく、そういうことは 結構きかされた。

みんな、それぞれ それなりに問題があったりするらしく、ついペシミスティックな 話になっていきがちで ”あ また”と 思うと 那美は ”すみません 00が始まるので ~”と席を外させてもらうほうに持っていく。

鷹也は自分は聞かれたくないが結構よその人の話は  うンうん聞いてしまうほうなので、あっそうだねとか慌てて、ナプキンをテーブルにおくようだ。

命の洗濯といえそうな クルーズなのに、家のことを引きずってみんな大変だわと 那美は思うが 鷹也に言わせるとみんな、こぼすのを楽しみにしているんだよとのこと。

旅の恥はかき捨てというけれど 皆、自分の中のもやもやもこの広ーい海の上の船から捨ててしまいたいのかもしれないなーと那美はおもう。

那美自体は それはいろんなことはあっても ここに来るともういいやとおもえているし、この先も次のクルーズのことばかり考えそうだと クルーズ中毒の兆候は あらたかである。

クルーズライフ自体がドラマの中の様なのに さらに 色んな人のドラマが 聞こえてくる 不思議な空間である。

海風にふきよせられて 人間模様まで集まってくるのかもしれない。

那美の模様は 波の形に 書き換えられはじめている。

クルーズに のると人生に

海が組み込まれてしまうのだ。

小説クルーズパラダイスートリビアで燃えろ、グローバルな戦い?

“Noo,Nami これはね パリノアメリカ人よ

生粋のニューヨークっ子の ケイトが自信ありげに 答えを書き込む。

那美も パリのアメリカ人なのは 承知の上だが、 問題は 曲名でかかっていたのは ラプソディインブルーで 那美も好きな曲だから 自信はあったが 、アメリカ女性の自信の前には それを説明する時間もなく 次の問題へと進む。

結局、那美があっていて、 オージーのジェフが 那美がなんだか、言ってたよねこれ、自信もってよ~という羽目になった。

面白いことにアメリカのレディは ほとんどが 間違えても”アラ おかしいわね”と

自信は ゆるがないのだ。

日本人は つい、外人に ”本当に? Are you sure?”といわれると よく知っていることでも ”えーとぉ

となってしまうのだ。

那美は日本人的でないと自負していた 自分が 日本人だったことに 改めて驚いてしまう。鷹也はまた 留学が 長かったので ちょっとかわっているし、 トリビアには ほとんど顔を出さないので どうなのかさだかではない。

でも 参加して、いろんな国の人と 一緒にするたびにお国柄を 見て取れるのが 結構面白くて 那美の隠れた楽しみなのである。

もちろん一概に言えることではないが おおむねの雰囲気というものがある。

日本人の中でも関東と関西、こまかくいえば 県違いでも結構違いがあるから

それの世界バージョンになるのだ。

スコットランドの 若い新婚さんは まだ20代後半だというのに 本当に物知りで

那美と3人だけのチームだったのにほとんど正解で、驚いた。

那美などは 問題を 理解することから始め、答えを日本語で 引っ張り出して それを翻訳しなければならないので もう大変。

後は スペルがわからないので ローマ字風にかいたり、 果ては 絵をかいて

”この象の絵 うまいねーと妙なお褒めをいただいたり。

英語の訓練とトリビアのゲームと 脳トレには最高、日本でもやってほしいと おもったりしている。

船の中では以外とトリビアファンが多く、

マニアに至っては強いチームで 結託して勝ち続けたり、アマチュアは引っ込んでろなどとの 発言をされて憤慨するカナダのレディもいたし、なかなか、静かだけど燃える催しになっているのだ。

一般のものと 音楽系があるが、 一般の出題は スタッフに任されていて それは多岐なところから出されてくる。

何で、そんなこと知っているのと思うほど なんでもしっていそうだが、 ネットのトリビアゲームでもかぶっている問題があったり、知る人ぞ知るものがあったり、那美は そのジャンルの広さも楽しい。

0000年のツールドフランスの優勝者はだれ?とか、 スポーツ系でもマニアックだったり、 このセリフで始まるシェイクスピアの作品を選べだの、動物系は 強いと思っている那美でも 心配になるような問題も出るとおもえば、ごく 簡単なものもあったり、簡単でも世界はメジャーでないものを那美がしっていて ”おおお Namiがいてよかった!!となったり、まあ悲喜こもごもではある。

でもお互いに頭を寄せ合って 解いていくとなんだか 親しくなるのがかんたんなのだ。

那美の最初のトリビアのときに、さそってくれた フィリピンのオフェリアのファミリーは 本当に賢くて親切、問題も悩んでいるとさっと 簡単に言い換えてくれ、そして 強く、何回も景品をもらえて大喜びしていた。

景品といってもちょっとした、船のブランドのロゴなどがついた小物だが 何となく、みんな、かちたいようではある。

那美などは 勝ちたいけど所詮ゲームだし、英語力もいまいちだしと思っているが

まにあなチームは 出題のスタッフにクレームを入れたりもする、しつこいやりとりをしていると そんなことに、うるさいぞと 正義感のおじさんなどが 大きな声で 横やりを入れ、その奥様にそんなことにくちをはさむなんてと たしなめられて、”でも だってあれだろう・・・とか 大きなオージーのオジサマが 小さくなってかわいらしいことになる。

都会風の年配カップルとしたときは 答えがあっているたびに 答えを考えたご主人に奥様が “ぐーっどぼおいぃ”と 微笑みかけるのが 何ともステキだったと

その日のディナーの話題になった。

それでも参加する、日本人が本当に少ないのが さみしいといつも思う。

日本人と組みたいわけではない、実際多国籍で組んだ方が

やはり正解率が高い、ジャンル別にいろいろ、知っているわけになるからだろう。でも、日本人だっていろいろ知っているのに、英語力がなくて 参加してこないのだろうか。

日本人だけのトリビアを催すときもあるが、それもまた 外国人は参加できないし、せっかく 世界中の人が乗っているのに、もったいないとおもえるのだ。

実際、イスラエルの人と一緒になって 後におしゃべりして お国の話を聞けた。

日本にいたらできないことである。アイスランドとドイツ人のカップルにあったり、アメリカ人だって 住んでいる場所で感じが みんな違うし、オーストラリアやヨーロッパでも そうである。

世界中がいろいろな多様性を感じられるのが クルーズとわかってきた那美だが、

トリビアではさらにその多様性のもっとおくが みえてくると おもっている。

人生の勉強の場になる クルーズねと 鷹也にいった。

 

小説クルーズパラダイス―オフィサーズボウルでクルーズの夜は廻る

”さあ Nami おどろう

カナディアンのウィルが さそいにくる。

ここは 船のラウンジで オフィサーズボウルが はじまっている。

オフィサーズボウルというのは フォーマルナイトの行われることの多い 催しで

普段操舵室に詰めていて 会うこともあまりないような 上級オフィサーが 礼装に身を包んで あらわれ、 乗客と ダンスを踊るというものらしい。

昼食のテーブルで いっしょになった カナダ人のカップルに ”ぜひでましょう、たのしいわよ”とさそわれ ダンスなど自信のない那美は みるだけでもとやってきたものだ。

鷹也は 海外で、留学だの仕事だのの経験があり ダンスはすこぶる上手なのだ。

日本で育った那美には とんと縁のない物だったので それこそ”いやいやいや~

となってしまう。

会場は 比較的 狭いラウンジなので つめかけたひとで 一杯ではある。

礼装のスマートなオフィサーが壁際に並んでいる、女性オフィサーは 白のミリタリー風のジャケットに思い切りスリットの深い濃紺のタイトスカートに ヒールのパンプスで それもまた かっこうがいい。

はじのほうにいる ちょっと華やかな かたまりは ショーダンサーたちで、 鍛えられた体にドレスやタキシードが ピッタリで 映画のシーンの様。

お化粧だけは ちょっとドレスダウンで 中欧からの女性など目を見張るほどの美女だ。

”いいねいいね ̄キレイどころがいっぱいだなあ

鷹也は 目の保養にいそがしい。

立っている側と反対の入り口からくだんのカナダ人カップルがやってくる。

彼らは リタイアした 学校の先生で おおがらの ふっくらした感じの良い人達である。奥様の マリアは あかるくて ユーモアの利いたおばさまで 食事の席で 言葉を交わしてすぐに親しくなった。

ご主人のウィルは 背の高い太めのオジサマで これも 良い感じの人である。

アメリカの人とは ちょっとちがう 押しつけがましくない 話の しかたなどで

那美の自信のない英語にも くったくなく 話してくれる。

さすが元学校の先生だ。

”どう、もうすぐはじまるわよ ほらキャプテンがきたでしょう。

オフィサーズボウルは キャプテンと 高齢の 素敵な マダムのダンスで 始まるらしい。

アナウンスでは 乗客の中の 一番乗船時間の長い人となっていた。

相当の高齢に見えるマダムは 壮年のキャプテンにしっかり寄り添って レースのドレスをひらめかせている。

曲はっゆったりしたワルツ。足はしっかりステップを踏み くるくるフロアーをまわっている。

一曲終わり サイドにきたマダムが 杖を突いたときには 驚いた。

足が悪いか何かなのに あのかろやかさ。

侮れないレディではある。

そして次のアナウンスで 催しの中身が分かった。

各オフィサーは くじ引き状態になっていて 誰かと踊って1曲終わると あたりのオフィサーが発表される。

あたると その相手の乗客は オフィサーについていた商品、シャンパンや オンボードクレジットやレストランの食事券などが もらえることになっているらしい。

曲が流れ様子の分かっている乗客たちは 一斉に オフィサーの並んでいる壁にいって くるくると踊り始める。

”ねえねえ 大変だね^海の男は 踊れなきゃならないんだよ

”男だけじゃないわよ女性もでしょ

アジア系の数名のオフィサーが残り気味だったが カナディアンのマリアは

”わたしは 彼と踊ろうかしら

と進み出ていく、その彼は フロアーでは 他より滑らかにすべるようにおどって 大柄なマリアを 軽やかに回したり 流したり あつかっている。

とても楽しそうだ。

1曲終わるごとに 発表があり歓声が上がりまた 次へと みんな入れ代わり立ち代わり踊り続け、オフィサーは 休む間もなし。

”ほらほら 那美おいで、

”私は踊れないんです~”大丈夫 大丈夫と ウィルが フロアーに那美をつれだした。

曲は 簡単なブルースだが 那美は ダンスのステップもしらないので ウィルの足を踏まないかとひやひやである。

でも 彼は2mちかい大男なので なんだか自分が 小さくなったようで ちょっといい気分である。

そして 上から うでをとって くるくるまわされてしまう。

ああ、みんなこうやって くるくるになるんだと 心の中で おもいながら 次第に おんがくになれてくるようだ。

”ほーら 彼女大丈夫おどれるよと 額に汗して 鷹也のもとに那美をもどしながら ウィルもたのしそうだ。

”ねー 楽しいでしょう これは逃せないイベントなのよー

マリアもおどりおえて カクテルを片手に 一息ついている。

ダンスって けっこう運動量のあるものなのねと おもいつつ、 那美は ウィルにお礼をいった。

次の曲は今度はカップルで フロアーに出ていく、

”あれは やっぱり若いころ相当一緒に踊ってるね

大柄な おばさまとオジサマは いとも軽やかに フロアーをまわっている。

ふたりして 一生 ぴったりよりそってきて いま リタイアライフを楽しんでいる お手本にしたい カップルである。

日本人の社交ダンスを習っているカップルの踊る硬い感じのダンスではなく

可愛いくらいにぴったりなのだ。

フロアーの隅では つれてこられて退屈している 6歳くらいの女の子の相手を

美女ダンサーチームが している。子供は ご機嫌そうで 上手に相手をしているのがわかる。

夜は 更けてもダンスは続く。生まれて初めての舞踏会デビューの那美だった。

 

小説クルーズパラダイス―誰と行く何故行くクルーズそれぞれの旅

”year!  もいっかいね。 one two one two

オージーのシェインの 日本語ちゃんぽんの 掛け声が響く。

(もー だめかもー

那美と クレアが 腹筋トレーニングクラスで 汗をかいて 30分。

最初は アンとであった 朝のストレッチで 気軽に心地よくしていたが

そのあとの 腹筋トレーニングに 気が引かれ のこって続けてみたのだ。

20人ほどいて スタジオが結構窮屈だったのに 残ったのは 結局 那美とクレアの二人だけだった。

クレアは アメリカ人のニューヨーク美人、金髪の形の良いショートカットの長身の素敵な 人である。

なにせ 二人しかいないので 自己紹介しあい シェインに言われるがままに

体を動かした。

最後の向いあってのクランクでは 汗が ぽたぽた滴り落ちる。

クレアの顔も真っ赤である。

”OK~ ありがとございました~Thank you good job you too!!

きついけれどそう快感もある トレーニングを おえて 二人で よろよろ立ちあがる。

”部屋で シャワー浴びなきゃね、という那美に ほんとほんとと うなずいて

ふたりは ジムを後にした。

まだ 午前中の朝も早く 鷹也は おきたかどうかも わからない。

とりあえず、 バフェで コーヒーを飲んでいかなきゃと おもって かいだんをおりて いった バフェのテーブルで クレアが 手を振っている。

”NAMI! コーヒー?

”そうなのよ 汗かいたからねー

と那美が 向かいの席に 誘われるままに 腰を下ろす。

”イヤーきつかったね といいつつ、気分だけは 何だか爽やかで コーヒーがおいしく感じられる。

”Nami 一人できているの?

”ううん、主人とよ、彼は まだ 寝坊しているのよ今頃起きたかな、

朝食を食べにいかなきゃねー、クレアは?

”いいわねー うちの主人は クルーズが嫌いなのよ、

”そうなの、一人の人っておおいよね、

”そうねー

こんな美女一人で 出して しんぱいしないのかなと余計なことを考えつつ

今日何するのとかの話になって 夕方のミュージックトリビアを一緒にしようということになった。

“まかしといて 音楽は とくいなのよ!じゃあ 夕方ね Have nice day!

するりと立ち上がって いく後ろ姿に you too を おくる。

 

”かっこいいのよねー いかにもアメリカンな美人でねー 独身かとおもっちゃった

”いいね アメリカ金髪美人すきだなー トリビア見に行こうか

と ちょっと興味津々だった鷹也だが 結局夜の 時間前のナップタイムで ゆうがたの トリビアには 那美一人でいった。

この日は フォーマルナイトだったので 5時以降は着替えなくてはならないが、

4時半のトリビアは 集まっている乗客も 半々くらいのドレスアップ率だった。

ディスコラウンジの 紫いろのソファで始まりを待っている 人の間を抜けて

カウンターのそばの安楽椅子でクレアを待った。

”Hai~ Nami

白いシャツにデザイナージーンズのクレアは ニューヨークから そのまま着た感じで 嬉しそうに腰をおろした。

実際 始まってみると 他のトリビアのようにパワーポイントは使わず 要はイントロクイズで 別にチームも必要なく自分で わかって書き込んでいく形式だった。けれどやはりクレアと組んで正解。

最近ポップスなどを 聞く機会が なくなっている那美には 難題ばかりの曲である。

”マルーン5ね、曲名はえーと、と クレアは サラサラ当てていく。

那美が 協力できたのは イギリスのグループコールドプレイの Viva La Vidaくらいで もう後は エーなんだっけ きいたことがあるのに―ばかり。

一人でしたら惨敗だった、が惜しくもさすがのクレアも hip-hopのなんちゃらの

曲名が当てられず、優勝には手が届かなかった。

まったく、何でも知っている人っているもので 今回も パーフェクトのチームがあったので みんなで感心しあう。

”残念だったねー 次にまたね

着替えなくてはならない 女子2名さっさと 部屋へ向かう。

この後一緒に何とかとかなりにくいのが クルーズのいいところである。

さりげなく分かれどこかで出会ったら また こえをかけあうという、つかず離れずの知り合いい関係が うまく続く。

数千人乗っているのだから 知り合い全員と深く付き合ったら それは大変なことになるし、暗黙の了解なのかもしれない。

”これでいい?

小さいブートニアを つけた 黒いタキシード姿の鷹也は なかなか決まっている。

”うんうん きまっている。

那美は 濃紺の サージのドレスに同じ ブルー味のあるバラのコサージュを止めつける。ネックレスは しつこいので 無しにして大きめの サファイア風の垂れるピアスが 定番だろう。

銀のパンプスのストラップ横に ドレスの切り替えのプリーツが揺れる。

”ストールはいるわよね きっと寒いから

”シアターは冷えるかな もった方がいいかも。

銀の猫型の パーティバッグと 小さめの布バッグに夜空の宇宙柄のストールを詰め込む。

”ああそこの 金髪美人がクレアよ ほらあそこ

イタリアレストランの横に ドレスアップの行列ができている。

どうやら、会員のプライベートパーティがあるので 開場まちをしているらしい。

すっきりした長身によく似合う、リトルブラックドレスをまとったクレアが 脇の 若い娘と 話している。

大きな スタッドのエメラルドのピアスが 金髪に生えている。

話相手の子は高校生か 女子大生か シンプルな ピンクのふわふわした ドレスのブルネットの まじめそうな 子で クレアとなにか 話続けている。

こちらには気がつかないので 声もかけずに通り過ぎるが 鷹也は ふりかえってみてモデルなみにかっこいいねと 目の保養ができた、これだからクルーズは いいなとか何とかつぶやいている。

バフェで 話したときには 特に否定しないし ご主人がクルーズをきらいなのと さみしそうだったので すっかり 一人と思い込んでいたけれど、お嬢さん連れていたのとは驚きだった。

それもあんなに大きい子がいるとは夢には 思わなかったから。

でも 何時も体を触れ合っていないと離婚などと 夫婦が くっついているというアメリカ人に中で 子供だけ連れてクルーズにいつもだなんて 確かに淋しそうと思わず クレアの家庭環境に思いをはせてしまう。

あの列に並んでいる以上 相当数のクルーズに入っているはずだから いつも 子供だけを相手にひとりで 行くのかしら、日本では ふつうだけどなんだか アメリカでは つらそうだ。

自分たちのように 楽しみだけに来ている人もいれば そうじゃなさそうな人もいそうで クルーズは 不思議なところとますます思う那美だった。

 

 

小説クルーズパラダイス―ふたりで見た海の青

”ほら こんなに青くて 何だかよばれて吸いこまれそう_

”なみなだけに?

”つまんない、だじゃれね ロマンがないわね。

”軽いジョークですよ、海は青くて広くて生命の故郷だからね~

きっとよんでいるんだよ、いつも。

二人の立つ木製のデッキは パブリックフロアーの周りを回れるようにしつらえてある。

足にやさしそうな 木のデッキは 客船でもないところとあるところがあるらしいがこの船は 客がせっせと歩けるように一周回れるコースになっている。

時には チャリティのウォーキングイベントで みんなで 好きなだけ歩くのに参加料を寄付として集めたりもする。スタッフが リボンをはってゴールする参加者を迎えているのを 昨日見かけたばかりである。

新聞の中にチラシで挟まっていた イベントで うっかり見落として参加しそびれた二人だが 御馳走三昧の船内では ウォーキングも日課にしている。

途中、海をながめたり、 くだける泡を眺めたり、しながらおしゃべりしながら 歩けば 長さが 300mもある船だけに運動になる。

ところどころで おいてあるデッキチェアで お昼寝中の知り合いを見かけたり、

読書中の人に手を振られたり、熱心に写真を撮っている人が またトリビア仲間で カメラの映像をみろみろと 呼ばれたり、退屈しそうで なかなか退屈もできない忙しい船のなかなのだ。那美は ふと立ち止まってながめる何もないはずの水面のなかが 多くの生き物の気配で ざわざわしているようにいつも感じてしまう。

それは、大きなものから小さなものまで たくさん隠れているのだが なにも普段はみえない。

それでもその気配は おおきく うみから ゆらゆらのぼってきているようなのだ。

今まで海水浴やそれこそハワイもタヒチもモルディヴやフィジーにも行ったけど

こんな妖しい感じは 船のデッキからみて 初めて感じたものだ。

昼間は 太陽の具合や くもの具合で 色が 変わる大海原。

怖いようで 安心できるような 複雑な 気分になる。

夜は もっとすごい。夜間は移動のために船はスピードを上げるので 波も大きく砕けるし、白波も大きくたつ。

でも 星の光では 見えないので 真っ暗な海面なのだ。

長く眺めるのは 危険な感じが するくらい。

生物といえば 本州の西へ向かう清水を過ぎる頃に 夜のデッキで 海を眺めたら

白く光るものが たくさんすすっと 水面を飛ぶのが見えた。

UFOにしちゃ、ひくいし、 蛍じゃないし、光るのでイカでも飛ぶのかなと 二人で しばらく見ていたことがあった。

あとから、 スタッフに聞いたらトビウオが飛ぶのだそうだ。

イルカでも見られるかと楽しみにしていたのだが トビウオが見られたので

幸先いいと 喜んでいたが、実際、客船のデッキでイルカはほとんどみえないそうだ。

ブリッジからは 監視をしているので クジラやイルカを見ることはあるらしいが

お客の見ているところで見かけるのは まれらしい。

それでも デッキ歩きをしていると”あっ、あれ

と 声を上げてしまう那美である。

鷹也は 旅に”三角波、三角波

といなしまうのだが。

鷹也は あるきながら、船の設計もしてみたかったなーとふと いっていた。

男子は やはりそっちに興味があるようだ。

波間に白い航跡をのこして 進んでゆく 船に乗っていると 普段の家や雑事が 遠い世界になっていく。

勿論、旅だから、当たり前なのだが 何だか、帰るところがなくなったような感じ、つまり、帰らなくてもいい気分になってしまう。

これは全く中毒症状といえそうだ。

デッキの風が 全身を突き抜けていくと 海の成分が 自分にしみ込んだように那美は 感じるのだ。

船の楽しみにこんなこともあるとは 思わなかったと またしても 感心してしまう那美である。