小説クルーズパラダイス―50回祝うヘビークルーザーとの出会い

”ねえねえ、じむにいってくるね

那美は、鷹也をかるくゆすってこえをかけた。

”ああ、はいはい、おっけーよ 、ご飯はまってればいいかな?

もやもやと シーツの中で 鷹也が 応じるとそうそうと 那美は さっさと

ベッドを出て 身支度を始める。

きるものは 前日の夜アクセサリーの至るまで決めておくくせがついているが、

取り合えず朝のストレッチに挑戦しようと思っているので、ジムウェアを 引き出しから取り出す。

まだ、7時。

昨夜は 午前様ぎりぎりまで、 ラウンジで 音楽など聞いてしまったから、眠くないといえばうそになるが 乗船後の探検中に ジムのスタジオで 無料のトレーニングがあると聞いて これはと 思っていたところ、船内新聞に載ていたので 早起きしたのだ。

グレーのカプリに 紺のtシャツ、ジム用にと もってきたプーマのシューズを はいて、

そうそう、クルーズカードは 忘れずに!と くびにかけ、 ハンドタオルをひとつ、 布のトートに放りこんで、 用意はOK,部屋をそっと出る。

ドアが重いので、 ばたんと閉めないように 外に出ると エレベーターにむかい、 スパ横の ジムへ上がっていった。

まだ スパもジムも空いておらず、 白人の中年の女性が 一人、ヨガマットを抱えてまっている。

おはようのあいさつをかわして にっこりして、手持ち無沙汰なので、つい

”クルーズは 何回めですか?

と、こえをかけた。

彼女は にっこりして、フフフ、実は50回目なのよと こたえた。

ブルネットのショートカットに 明るめのグレイの目が 色と同じように明るい感じの人だ。

”えー、すごいですね。わたしは、はじめてなんです

眼をきらりとさせて彼女は

”私、初めてクルーズに乗る人に会うのが 大好きなのよ。

アンといいます。おなまえうかがってもいいかしら?

と ますます、嬉しそうにいってきた。

”namiです。どちらからいらしたの?

とすると 元気な白人の青年が ソーリー、ソーリーと やってきて、ジムの戸を開けてくれた。

”みんなストレッチですか? 行きましょう行きましょう、天気もいいねー

と いたって ご機嫌な青年は昨日、ジムで説明していたトレーナーで ニュージーランド出身で、 日本にも行ったことがあるらしく、日本語がりゅうちょうなのだ。出港の翌朝で まだ 人がほとんどやってこず、アンと二人参加のストレッチだった。

始まる前にちょっと聞いたところでは アンはカナダのトロントから来ているらしい。自前のヨガマットが クルーズ慣れしている証拠のように見える。

フィットネススタジオは 船の前方で 進行方向を向いて トレッドミルができるようにしつらえてあり、いくつかのマシーンや、ウェイトリフティングスペース、その奥にちょっと仕切って 部屋があり、サイクルマシーンやボールやマットなどの器具を並べた脇に 20人くらいは参加できるようになっている。

きれいに丸められたタオルが たくさん用意されていて 自分で持ってくる必要などなさそうだった。

使ったものはかごに放り込めばよくなっている。

ストレッチも結構本格的だし、 軽快に音楽をかけて トレーナーの掛け声で 汗を流すようになっている。

無料のクラスがいくつかと、あとは有料で 専用にプログラムを作ってもらったり、細かく面倒を見てもらうこともできる。

おかれてある、パンフレットには 結構なメニューが並んでいる。

食べ過ぎも運動不足も解消できるというわけね、と那美は こんなこともサービスがあることに妙に納得してしまう。

昨夜のごちそうは 量は多めだったが 味は細やかで、 日本発着の日本人の多さを気遣っていたようで 食べ過ぎてしまいそうだったのだ。

40分ほどのストレッチで 汗だくになってまうが、 エアコンは効いているので べたつかずすっと引いていく。

アンは ”またね ケヴィンを起こして 食事に行かなきゃだから

どこかで あったら、ほかのクルーズの写真おみせするわ、

と 手を振る、那美は 初めてなので いろいろ、おしえてほしいと頼んでみたのだ。

つたない英語とは思ってみたけれど、話せば通じるもので ストレッチ1回一緒で すっかり友達気分である。

アンは 御主人のケヴィン二人で 乗船していて 二人とも 大のクルーズファンで 二人で あちこち回ったので 色々見せてくれるという。

那美も 経験者からの情報が ほしいところだったので、ちょうどく、いい方と知り合えたと 思った。

部屋に戻ると鷹也が じわじわひげをそっている。

”おかえりーどう?海は なみちゃぷちゃぷかなぁ? ここはあまりゆれないねー

相変わらず寝起きもよい人である。

”いい人にあえたのよ、カナダ人なんだけど今回50回目のクルーズだって。

いろいろおしえてくれるって。どこかで あえたらねていってた。

 

”へぇぇ そりゃ あさから 良かったね 、早起きのとくかな。

50回ってすごいな。

ごはんたべにいける?昨夜の後でもさすがに朝は おなかが すいちゃうんだよ。

”行けるいける、今これ着替えてしまうからね。

鏡前のソファに用意しておいた服に着替えながら 、朝ご飯が楽しみな那美だった。

昨夜あんなにお腹いっぱいだったのにねと 同意しながら クルーズカード大丈夫?と確認して 鷹也が 首元のカードを振り返す。

他愛ない出会いのアンと実は 何だか、縁が 深かったとは この時考えもしなかったのだ、もしかして この辺で クルーズが魔力を及ぼし始めたのかもしれない。

もしや、クルーズにえらばれてしまったとか。

小説クルーズパラダイスーお姫様ライフなクルーズ船

”何でもおいしそうで なかなか、きめるのが大変ですよね”

”そうですよねーじっくり メニューと相談してるんです”

と かえしながら、オーダーをしている那美の向こうでは”日本酒はあるかい?”

岐阜から来ているという 60代のご夫婦のご主人が ウェイターにたずねている。

”あります、大きいのどうです? いっしょびんね。やすいね、まいにちのみますか?”

どうも ボトルキープのおすすめの様だ。ワインの好きな鷹也もちょっと関心持って きいている。

色々聞いて 頼んでみることに、したらしい。隣の一人旅らしい女性が ”日本酒までのせているんですね~それも一升瓶”と 面白がりながらも感心する。

”ねー、本当に、日本発だからじゃないですか、めしあがられます?

と 返す、那美に 少しは飲みますが、わざわざ、こんなところでどうかしらと

楽しそうにくすくすしている。

”一人で来ていますから 酔ったりしてはたいへんでしょう、ねえ”

那美は日本酒は飲めないほうなので 強そうにいつも思っているので それはそうだとうんうんと うなづき、

”おひとりですか?どちらから?

”神戸です、母を誘ったのですが 船は酔うかなとことわられまして、わたしが チェックしていくことになっているんです。大きい船は よわないって ネットなんかでも書いてありますけど、じっさい行ってみないとね。

”そうですよね、そういうかたおおいですよね。私たちは 東京からです

そうこうするうちに 食事が 運ばれてくる。

どれも美しい、盛り付けが シンプルな ロゴ入りの白い大皿の上で おいしいのよと 自慢げにのっている。

“なかなですな、うわさにはきいておりましたが、やはり高級ホテルのレストラン並みの 食事を海の上で だすんですな”

日本酒のご主人は ニューヨークカットステーキが 気に入ったらしく ご機嫌である。

”ですよねー これだけの人数ですから大変ですよね、それにしても スープはしっかりしていたな、ちゃんとアスパラがはいってたきがしますね。

と 鷹也も同意することしきりである。

”ほんとうにね、おいしいものをいただけて こんなに立派な船で 何もしないで リゾートライフなんて 主婦にはゆめのようですわ。

ミセスのほうも 丁寧に調理されたスズキのグリルのソースを味わいつつ、しみじみうっとりの気分である。

那美もおなじように、船は 何とらくなのかと 思いはじめていた。

鷹也も那美も旅行好きなので あちこちずいぶん出かけているが フリーで行けばついつい 食事のことは考えてしまう。主婦にはこびりついた宿命で 朝を食べれば次の昼を、昼を食べれば 次の夜をというように 常に考えてしまう癖になっている。

ツアー旅行では ついてはいても時間がなくゆっくりできなかったり、 作り置きの料理をまとめて 食べさせられるような パターンが多い。

船では 時間に行きさえすればおいしい食事がサービスされるのである。

別にご飯目当てで乗っているわけではないけれど、人間腹のおさまりは大事であるし、

上げ膳据え膳は 昔からの主婦の夢である。

そして、 しなくてはならないのは 着る物のことを考えるくらい。

子供のころ、お姫様のように、何もしないで ドレス着て、遊んで暮らしたいなといっていたら、母にお姫様は しちゃいけないこともたくさんあるし、好き嫌いも言えないし、そんなところでごろごろできないからいいことなんかないわよと

よくいわれたものだ。

そうすると、この船の生活、きれいな服(好みによるが)着て、食事は たべさせてもらえて、遊んでいればいいというのは 究極のお姫様ライフじゃないと 那美の胸もときめきだす。

ああどうしよう、はまってしまいそうな自分が怖い 

セビーチェのドレッシングに舌鼓を打ち コンソメチェックもよし、 チキンの焼き上げと柔らかさの 具合がよくて 添えられたローズマリーが 風味よく、再度ディッシュのマッシュドポテトが禁断の糖質なのにもかかわらず、悪魔のおいしさである。

”なんでも おいしくていいなあ”と 鷹也もつぶやく。

となりのおひとり様レディは メニューがきまって 向こう側のやはり一人で来ているらしい、男性に気軽にこえをかけている。

男性のほうは ちょっと、人見知りらしく、 ええ、はあと うけている。

初日のテーブル、 社交生活になれない日本人テーブルは なんとなく、面はゆく、そう、話も弾まない。

外人のテーブルは 笑い声もたっているようである。

まだ、初めての夜、でも これからどうなるかしらと 那美の興味もいろいろ移っていく。

鷹也ほどでもないけれど、 そんなに引っ込み思案ではないから 大丈夫だろうと 飾られた生花のうえから テーブルをみわたした。

 

小説クルーズパラダイス―クルーズライフ初体験満載

はじめてのディナー。

8階の部屋から、5回後方のレストランには 階段で行けばすぐである。

那美たちは 遅い時間の 食事をとってあるので 8時からのディナーに 行けばよいので とりあえず、荷物の片づけをおえた。

9日間のクルーズだが フォーマルナイトも2晩あるらしいし、夕食時には やはり、着替えたいので なんだかんだと荷物が多い。

那美などは 慎重派なゆえに 何か、汚したらとか、着れない事態が発生したらとか、あつかったら、寒かったらとどんどん、増えてしまう、いつもの 荷物である。

大したもので、インサイドのいわば、飛行機なら、エコノミーにあたるような部屋なのに、クロゼットなどの収納力は しっかりあるようだ。

ハンガーにずらりとかけてならんだ 服の中からちょっと おとなし気な 紺のジャージーの7分袖のワンピースを選んで 那美は 着替えた。

”エー、何きようかなぁ、”

何時も、支度に時間がかかるのは しゃれものの 鷹也である。

別に、すごい、ファッショナブルなものを着るわけではないが、ジャケットだの。シャツやパンツに結構こだわりがあるらしい。

でも、買うときに気に入った物から買ってしまうので あとから 組み合わせが むずかしく、那美に、アドバイザーを 頼むのがつねになる。

色も男性特有の色弱があるらしく 紺と黒の判断がつかないので 色合わせにうるさい、那美のチェックを とおしてやらなくてはならない。

そんなこんなで 鷹也も ちょっと 光沢のある紺のジャケットに シルバーグレイのコットンのパンツにきめて 何とかしたくができあがった。

と、出たところで ターンダウンに来たマリアと鉢合わせになる。

”Good eveningマリア!”と ニコニコとあいさつをしてくれる彼女に、にっこり返しながら、船内新聞の英語と日本語を1部ずついれて くれるようにたのんだ。

途中 キャビンを回っていくスタッフや 食事に行く人と ずっと、

”Good evening”と いい続ける。那美は心の中で 今までの人生の なかで いったより、多くこの移動中に行ったような気がすると 何だか感心する。

遅いディナーは ショーとの兼ね合いが難しく今日は 10時からがあるので、そちらに行くことにして とりあえず、レストランへ向かうことにした。

5階までカーペット張りの階段をおりて 行くとやはり、海外からのお客は いかにもな夜の服装に着替えている。

レストランポセイドンの入り口前は 初めてのディナーの客で 列ができていた。

タキシードとベストのスタッフが それぞれのクルーズカードに書かれているテーブルをみて 案内している。

”Good eveningマダム(まだぁむときこえる) 彼についていってください。

タキシードの上級スタッフにうながされて

レストランの中を進んでいく。たしかカードには 174とか書いてあったっけ、

どのあたりかな、窓際だとラッキだけどなどと かんがえているうちに きらびやかにセットアップされたテーブルの隙間を縫って ちょっと奥寄りの円卓に案内された。すでに日本人のカップルが二組ほどせきについて メニューを眺めている。

ざっと目を走らせた感じでは 8人テーブル。カップル4組都いう計算でゆったり座れるしつらえだ。

ここでも、とびかうGood eveningで すきっとした アジア系のうぇうたーが進み出て椅子を引いてくれる。

“nice meet you 私は 担当のサイモンです。マダム。ポセイドンへようこそ”

きれいな歯並びで にっかりわらった ウェイターの好青年。名札にはフィリピンとある。

那美はよろしくと笑みを返しつつ、先にきていた 2組のカップルに 今晩はと声をかける。鷹也も椅子に掛けながら よろしくといつもの愛想のよさだ。

直ぐに、残りの二人も現れた。こちらは一人で、来たので、 カップルではないらしい。

となりのリタイア世代らしいカップルに鷹也は さっそく、”どちらから?とか 話しかけている。

さて メニューを渡された那美は さすがの 評判通りの 高級レストラン風な 内容に 予想はしていたけれどやはり ちょっと驚いてしまう。

なんにでもちょっと 驚きを感じる自分が ちょっと かっこわるいなどと 独り言ちているのだが センシティブってことねと 自己完結を図るしかない。

薄い黄味の強めな 紙に 書かれた 、オードブル、メイン、本日のパスタ、スープなどに 眼を走らせて とりあえず エクルビスのセビーチェ、ビーフのダブルコンソメと 決め、コスレタスのサラダはドレッシングなしにしてもらい、メインは チキンのグリルを頼んだ。

鷹也は やはりセビーチェと アスパラガスのポタージュ、ニューヨークカットステーキを 頼んで ワインのリストを 頼んでいる。アシスタントウェイターのシンシンと紹介された 真面目そうな ごく若いひとと 熱心にメニューを見ていたが けっきょく、ソムリエらしきこれは ヨーロッパ系のウェイターがやってきた。

”サー、 何を召し上がります?

”ステーキなら 今日のメルローは いかがでしょう、フランスのものです。

いまきづいたが ソムリエは 英語だが、 ヘッドの サイモンはそういえば 日本語が流暢だったと那美は へええと またも思ってしまう。

シンシンは英語だったけど 今晩はといったようなきもするし、 さすがに日本回りのクルーズは 日本語の分かるスタッフがいるわけだ。

那美はもうはなから アメリカの船=英語の 頭になっていて 実は メニューのやり取りも今思えば 那美英語、サイモン日本語のおかしなことになっていたのだ。

ほかのテーブルメイトは 日本語で オーダーをしている。

というより、ゆびさしで これこれといえば はいわかりましたと サイモンが受けるので 順調に数んでいく。レストランの中も 客はほぼ入り終わり、柔らかめのライトの中を 行きかう ウェイターたちのベストが 時々光っている。

目の前には きちんと並べられた 皿と グラスに ナプキンをかけられた パンのかご。バターは 銀のバター入れに 角砂糖のように乗っている。

ソムリエが ワインを持ってきて説明をしている間に隣の一人で 来た女性が 声をかけてきた。