小説クルーズパラダイス―ふたりで見た海の青

”ほら こんなに青くて 何だかよばれて吸いこまれそう_

”なみなだけに?

”つまんない、だじゃれね ロマンがないわね。

”軽いジョークですよ、海は青くて広くて生命の故郷だからね~

きっとよんでいるんだよ、いつも。

二人の立つ木製のデッキは パブリックフロアーの周りを回れるようにしつらえてある。

足にやさしそうな 木のデッキは 客船でもないところとあるところがあるらしいがこの船は 客がせっせと歩けるように一周回れるコースになっている。

時には チャリティのウォーキングイベントで みんなで 好きなだけ歩くのに参加料を寄付として集めたりもする。スタッフが リボンをはってゴールする参加者を迎えているのを 昨日見かけたばかりである。

新聞の中にチラシで挟まっていた イベントで うっかり見落として参加しそびれた二人だが 御馳走三昧の船内では ウォーキングも日課にしている。

途中、海をながめたり、 くだける泡を眺めたり、しながらおしゃべりしながら 歩けば 長さが 300mもある船だけに運動になる。

ところどころで おいてあるデッキチェアで お昼寝中の知り合いを見かけたり、

読書中の人に手を振られたり、熱心に写真を撮っている人が またトリビア仲間で カメラの映像をみろみろと 呼ばれたり、退屈しそうで なかなか退屈もできない忙しい船のなかなのだ。那美は ふと立ち止まってながめる何もないはずの水面のなかが 多くの生き物の気配で ざわざわしているようにいつも感じてしまう。

それは、大きなものから小さなものまで たくさん隠れているのだが なにも普段はみえない。

それでもその気配は おおきく うみから ゆらゆらのぼってきているようなのだ。

今まで海水浴やそれこそハワイもタヒチもモルディヴやフィジーにも行ったけど

こんな妖しい感じは 船のデッキからみて 初めて感じたものだ。

昼間は 太陽の具合や くもの具合で 色が 変わる大海原。

怖いようで 安心できるような 複雑な 気分になる。

夜は もっとすごい。夜間は移動のために船はスピードを上げるので 波も大きく砕けるし、白波も大きくたつ。

でも 星の光では 見えないので 真っ暗な海面なのだ。

長く眺めるのは 危険な感じが するくらい。

生物といえば 本州の西へ向かう清水を過ぎる頃に 夜のデッキで 海を眺めたら

白く光るものが たくさんすすっと 水面を飛ぶのが見えた。

UFOにしちゃ、ひくいし、 蛍じゃないし、光るのでイカでも飛ぶのかなと 二人で しばらく見ていたことがあった。

あとから、 スタッフに聞いたらトビウオが飛ぶのだそうだ。

イルカでも見られるかと楽しみにしていたのだが トビウオが見られたので

幸先いいと 喜んでいたが、実際、客船のデッキでイルカはほとんどみえないそうだ。

ブリッジからは 監視をしているので クジラやイルカを見ることはあるらしいが

お客の見ているところで見かけるのは まれらしい。

それでも デッキ歩きをしていると”あっ、あれ

と 声を上げてしまう那美である。

鷹也は 旅に”三角波、三角波

といなしまうのだが。

鷹也は あるきながら、船の設計もしてみたかったなーとふと いっていた。

男子は やはりそっちに興味があるようだ。

波間に白い航跡をのこして 進んでゆく 船に乗っていると 普段の家や雑事が 遠い世界になっていく。

勿論、旅だから、当たり前なのだが 何だか、帰るところがなくなったような感じ、つまり、帰らなくてもいい気分になってしまう。

これは全く中毒症状といえそうだ。

デッキの風が 全身を突き抜けていくと 海の成分が 自分にしみ込んだように那美は 感じるのだ。

船の楽しみにこんなこともあるとは 思わなかったと またしても 感心してしまう那美である。


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